訪ねたお店の前で20分ほど立ち往生のお話。
初日から何とはなしに気になっていたお店の乳白色のカップ。
伝統技法のしのぎ(手彫りによる彫り込み)による模様が
精巧で細かく、曲線を描いて優美でありながら
カップ自体は少し重厚な感じを漂わせている
存在感がすばらしいと感じていたが、
何故かすぐに購入という行動には移らなかった。
色の感じをもう少し詳しく言うと、
CD-RやDVD-Rの印字面の色、
ホーローびきのような感じとでも言えばいいだろうか。
ところが、このカップが、最終日前日にはお店から消えていた。
作家の方に訊いてみると、もう売れてしまったという。
何とか手に入りませんかとたずねると、少し考えた後、
最終日、奥さんが後片付けに来るので、
その時売れたのと同じカップを工房から
持って来てもらうよう連絡しておくから、
22時前に寄ってくださいというので、そうすることにした。
ところが最終日、お店に寄ってみると
これですと見せられたのカップは、
口の周囲にキャラメル色の釉薬が塗られ、
部分的に少し内側に垂れていて、真っ白のカップとは少し違った。
真っ白なカップだったら何の迷いもなく即買ったのだが、
この口の周囲についたキャラメルのために
店の前でしばらく立ち尽くしてしまったというわけなのです。
真っ白な、もう少し細長いビアマグにするか、
真っ白で似たような形だけれども、
しのぎの模様がほしいものほど密ではなく
縦にストレートな模様になっているもの、
この3つを何度も何度も手にとっては返し、
手にとっては返し、とうとう決めかねてしまった。
―真っ白なやつが欲しかったんです。
―それじゃ、真っ白のやつをつくりますよ。
とまで言っていただいたが、だんだん気がひけてきた。
買わずに帰ろうかという思いも頭をよぎったが、
わざわざもって来ていただいておいて断る言葉も見つからず、
そのうち何だか申し訳ないような気になってきた。
汗が額を流れ出した。
あちこちで、少し前から店じまいが始まっている。
―ゆっくり選んでください。
―これだけ悩んで買っていただけるということは、
作り手としての責任を感じます。
みたいなことまで。
そういう訳で、やはりわざわざ持ってきていただいた
しのぎのカップ(10/10)を購入することにしました。(N)


