2005年09月14日

火曜講座、「批評」後編について

今回の報告は、うまくまとめる自信がありませんので、レクチャーの内容と
私の感想が入り混じったものになっていることを、まず最初にお断りしておきます。

今回(9/13)の森山先生のレクチャーは、60年代後半に起こった
アングラ(小劇場)がテーマ。
これは、前回とは全く違うフィクションを素材に、批評と演劇の楽しみ方を考えてみよう、
というものでした。
60年代後半に起こったアングラの代表選手として、鈴木忠志(早稲田小劇場)、
唐十郎(赤テント:状況劇場→唐組)、佐藤信(自由劇場→黒テント)、
寺山修司(天井棧敷)らが現われ、その後に、太田省吾、さらに、別役実の「象」(1962)
という戯曲も、アングラの火付け役を担ったいうお話しの後、
当時のビデオをいくつか見せていただきました。

唐十郎(赤テント)の公演が記録されている、大島渚監督作品の「新宿泥棒日記」(1969)と
比較的新しい唐組の公演、寺山修司(天井桟敷)のオランダのアーヘムで開かれた
ソンズビーク美術祭での「市街劇・人力飛行機ソロモン」(1971)、
太田省吾の「小町風伝」(1977)、「水の駅」(1981)、
「地の駅」(1985:大谷石地下採掘場跡にて)、「砂の駅」(1993)、
そしてサミュエル・ベケットの「ロッカバイ」です。

アングラは、旧態然とした新劇とはまるで異質な世界を創造すること(反新劇)を
スローガンに掲げていたようですが、それは、演劇といえば新劇のこと、という
その時代の演劇に対する当り前の考え方を打ち破り、さらにそれを突き抜けて、
もう少し本質的なこと、つまり、ものごとの認識の枠組み(空間や時間について当り前だと
思い込んでいること)にも及んだ、といっても差し支えないように感じました。

まず空間のことから。
寺山修司さんの「市街劇・人力飛行機ソロモン」は、アーヘムの街中で演じられ、
自動車が燃やされたりしている映像でしたが、この公演は、劇場ということばに
当然含まれている考え方のいくつかの要素(例えば、同じ時間と空間を
共有しているけれども、舞台と客席、虚構と現実、役者と観客の間には、
一定の違いや距離が設定されていること、あるいは暗黙の了解があること)を
かなりあやふやなものにして、揺さぶるものになっています。
また、唐十郎さんの場合は、赤テントの中に居ても、外からは、新宿の騒然した雑踏が
聞こえてきますし、テントの一部がめくりあげられると、そこからは、新宿の街という
現実の世界が見え、虚構と現実の境があいまいになっているような仕掛けです。

もう1つの要素は時間です。
太田省吾さんの「小町風伝」の特徴は、沈黙劇もさることながら、役者の動きが非常に
ゆっくりとしたものになっています。これは、舞台上には、現実の時間とは異質な時間が
流れていることを感じさせます。つまり、それによって、逆に我々が慣れ親しんだ
時間意識が問われるようなことにもなります。
そして、声は空間にある空気の振動と時間的経過がなければ、人の耳には聞こえません。
沈黙劇はそういうことも、逆に問うているようにも感じました。
また、物語の始まり、時間的経過とともにストーリーは展開し、劇的な結末を迎えるといった
直線的な時間的概念以外にも、円環的な時間、反復が挙げられるということで、
反復の例としては、アングラにも影響を与えたベケットの「ロッカバイ」を見ました。

それは、スローで明転し、ロッキングチェアに座った老女の顔が浮かび上ると、
老女は突然「more!」と叫ぶ。それから、椅子を揺らしながら、
短い台詞をしゃべり、それが終わると暗転。
また明転して顔がクローズアップされると、「more!」と叫んで同じような台詞が続き、
また「more!」といってから台詞が始まる、そういう繰り返しです(15分くらい)。
これを見ていて、私はエリック・サティのヴェクサシオン(ピアノの短い小品を
極めてゆっくりと840回繰り返して弾く指定があり、演奏には18時間以上はかかる)
を思い出しました。
そう言えば、「小町風伝」でもサティのジムノペディが使われていました。

以上、アングラについては全く知識のなかった私ですが、森山先生のお話しを
うかがって、アングラのもつ反権力、反骨といった時代精神を感じることができました。
それと同時に、演劇における「批評」をテーマとする2回の講座を通して、
演劇を見る際の視点が、今までよりは少しは広がったかな、と感じました。(N)
posted by ひがせい at 21:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 実施報告 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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